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「Not Yet(まだできてないだけ)」が子どもの心に火をつける。

 キャロル・ドゥエックというスタンフォード大学の心理学教授をご存知でしょうか。著書「マインドセット やればできる!の研究」が日本でも話題となり読んだことがある人もいるかもしれません。そのドゥエックはあるシカゴの高等学校の成績を見て驚いたそうです。落第点を取ると、普通は「F(failing grade)」つまり、「落第点」と評価されます。ですが、その学校では「Not Yet(まだできてないだけ)」と評価していたそうです。

 これを知ったとき、子どもが失敗したり、上手くいかなかった事があったとき、子どもたち自身は失敗をどう捉えているか自問自答しました。中学校の教育現場で働いていたときを振り返ると、分かりやすいのは定期テストや通知表を渡した時です。テストで思うような点数が取れないと「もうダメだ・・・志望校にいけない・・・」と言わんばかりに落ち込んでしまったり、通知表の結果に対して怒りの感情をあらわにする子どももいました。彼らは失敗や上手くいかない事を「自分はダメだ」や「自分は出来ないんだ」といった烙印を押されているように捉えていたと感じました。

 3年生の担任をしていた時、こんな出来事がありました。卒業式の前日に最後の通知表が渡されました。その時、1人の男子生徒がある教科で「4」であったことに納得がいかず、教科担当の先生のもとへ直談判へ行きました。かなり粘り強く反論をしていたようで、当時担任だった私が様子を見に行きました。私が教科担当の先生の説明を聞いていても、理不尽ということはなく、正当な評価であるなと聞いていました。(そしてとても丁寧に説明もしてくださり、頭が下がる想いです)ですが、本人は納得がいきません。様子を見ていると、本人は、「頑張ったのに、5ではなく4であり頑張りを認められない」ということを絶対に受け入れたくないという様子でした。それは「自分にとっての失敗(上手くいかなかったこと)=他者から認められない。ダメなこと」という捉え方をしていました。ですが、失敗(上手くいかないこと)は、自分がまだできていないこと(Not Yet)が明らかになり、それをクリアすることで大きな成長に繋がるいわば、成功のための投資のようなものです。なので、まずはそこの捉え方を変えることが大切だと感じました。(そしてあの時の状況ではそれをするのが担任である自分の役目だとも思いました。)

 彼の成績が「4」であったのは、端的に言うと感情を上手にコントロールできずに授業中の他者や先生への言動等に課題があったからとのことでした。彼にとって、グループなどで課題を行う際などに自分の感情をコントロールして他者に最適な言葉がけや態度を示すということが、「まだできていないだけ」だったのです。彼には、「高校に入学したら生徒会長になる」という明確な目標がありました。そんな彼に私は、「凄く頑張ったことは担当の先生も認めている。あとは、頑張ると熱くなりすぎて周囲への最適な言葉がけや行動が今はまだできていないだけ。これに気づけて良かったんじゃないか?目標である生徒会長になるためにこれが出来ることは必須だよ。もし、これで5だったらそれに気づけていなかったよ。」と声をかけました。そして、「成績って良い、悪いって捉えるんじゃなくて自分がまだ出来ていないことを知って次に繋げるものだよ」とも言いました。「生徒会長になるんだろ?」と再度言うと、彼は、うなづいて涙を流しながら納得した様子で帰っていきました。(翌日の卒業式より泣いていたので、「泣くの今日でしょ!」とツッコみました 笑)そして、失敗=ダメの烙印ではなく、成長や成功への投資と捉え自分の心に火をつけてこの春から目標に向かって高校で頑張っていることと思います。少なくともあの日の彼の表情からは、「もっと頑張ろう」というモチベーションを感じました。

 「まだできてないだけ」と失敗を捉える事ができれば、それは子どもにとっても大きなエネルギーになって成長に繋がると思います。この、自分自身から湧き出る大きなエネルギーを活用することを、EQのなかでは、「内発的なモチベーションの発揮」といいます。まさに、「心に火がついた」状態です。内発的動機づけの研究で有名なデシは「子どもをどう動機づけるのかではなく、子どもがどう自らを動機づけるかを問い続けなければならない」と述べています「まだできてないだけ」→「頑張ろう」→「できた!」の成功体験を積み重ねることは内発的モチベーションの発揮、つまり子どもが自らを動機づけることに繋がると思いますし、大人がそのためのサポートをしていくことが大切だと感じました。

 私自身、振り返ると無意識に「子どもたちにはこのくらいが限界じゃないか・・・」と勝手に能力の限界を決めていたということにも気づけました。ですが、子どもたちはこちらのそんな予想を越えることも多々あります。それは、子ども自身は限界と思っていなくて挑戦し続けていたからでしょう。そして、私がその時、「Not Yet(まだできていないだけ)」のマインドセットでいれば、もっと多くの子どもたちの成長を促せたのではないかと感じています。

 まずは、大人である自分自身が「Not Yet(まだできていないだけ)」のマインドセットをもって日々生きて子どもたちのロールモデルとなること。また、教育現場では前述のシカゴの高等学校の成績表のような環境の設定も様々な面でできると思います。この辺りを日々考えながら、自分自身や子どもたちと向き合っていくと、「失敗しても大丈夫!」な世の中にどんどんなっていくと思います。

※参考文献

・MINDSET「やればできる!」の研究 キャロル・S・ドゥエック

・プレイフル・シンキング 働く人と場を楽しくする思考法 上田信行

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