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演劇創作現場における ”感情” と ”思考”

私は、舞台演出家として日々活動している。この二年間、感染症との闘いにおいて、演劇界も大変大きなダメージを被った。人々の心が劇場から離れてしまったり、こんな時に悠長に観劇なんかしていられない等々、様々な声が飛び交った。まだまだ完全収束とはいかないまでも、今、出来ることにまい進しようと、感染対策を講じながら一進一退を繰り返しているのが現状だ。そんな私は、二年前に上演する予定だった舞台「かもめ」のリハーサルに現在、取り組んでいる。

私が俳優修業を始めた27年前、日本の演劇の現場では、演出家は権威ある立場として一方的に交通整理しながら、指示や指導をする存在、言わば絶対権力者として君臨していた。無論、演出家のダメ出しは問答無用で聞かなければいけない。俳優は演出家の駒というわけだ。幸い私自身は、演劇の師から欧州式の演劇メソッドを体系的に受けることができ、一年目は教師と生徒、二年目は演出家と俳優、三年目はアーティストとアーティスト同士と、学びの中で関係性を発展、変容してくれた。あれから27年の時が流れ、欧州や欧米の演出家との交流や、日本人学生の中から海外の演劇学校や演劇大学で学んだ人が増え始め、演劇の現場も一変しつつある。未だに旧態依然とした演出の仕方をする人もいるにはいるが、演出家は、俳優にとっての探究支援者であり、共同探究者であるという認識が少しずつ浸透し始めた。

”徹底的なコミュニケーションの時間と問いの立て方”

現在、私が演出する中で大切にしているのは、作品について、役について俳優たちと徹底的にコミュニケーションを図る「テーブルワーク」という手法だ。この手法を通じて、演出家と俳優が対等に共有すること、分かち合う場を構築していく。私が一方的に「こうしなさい!こう動きなさい!」と指示を出すのではなく、俳優たちの主体性や創造性をとことん信じ、自由闊達に意見交換を行い、作品や役についての仮説を立てながら、実演を通して検証を進めていく。俳優たちは自ら演じる役について、各場面での感情を紐解き、そこで一体何をしようとしているのか?内的な動機(~したい)を丁寧に思考していく。その後、実演を通して、俳優たち同士でもフィードバックをし合う関係性に発展していくと、この場は心理的に安全な場である、と感じることが出来、俳優たちの主体性や創造性、協調性がグッと深まっていく。そこから内発的モチベーションは一気に高まり、創作のコントローラーは、演出家ではなく俳優たちが握り始めるのだ。

”What / Why / How”

役についての考察を進める時に、「これはこういう感情!」「この人はこんな気持ちじゃない!」と演出家が一方的に決めて、指示を出すのではなく、俳優たちが自らクリエイター(創造者)として、何を感じているのか、なぜそう考えるのか?どのように行動すればいいのか?などをとことん思考し、話し合う。フランス語の語源において、俳優とは、解釈する人という意味があるらしい。演出家は、答えを伝える、教え育てる存在ではなく、What / Why / How の問いを投げかけながら、俳優たちと一緒に思考していくファシリテーターとして存在する。そう、ここで大切なのは、問いの立て方なのだ。

答えは演出家が持っているのではなく、役を演じる俳優たちが最終的にどの考えを選択するか、にかかっている。演出家は、俳優たちの役が向かう方向に伴走し、共同探究者のスタンスで、探究支援していく。そのプロセスで欠かせないのは、まさにEQ/セルフサイエンス視点のファシリテーションだ。俳優たちは、役についての感情を知り、選び活かす、このサイクルこそが、役作りの大切なところで、それらを目的、目標、手段に分けて思考していく。それらが一貫した時に、役の~らしさ、アイデンティティが確立するのだ。こういった創作プロセスを経た作品は、人間味に溢れた愛おしいキャラクターたちが、生き生きと行動する様を目の当たりに出来、観客が共感、共鳴する舞台へと昇華していく。EQ、セルフサイエンスと演劇の連動性と類似性は、今日、確かなものになりつつある。

舞台「かもめ」の詳細はこちらから
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=64951&

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