EQを活用する~演劇創作の現場から~
”『感情』についての紐解き”
舞台演出家として、この夏は、二人芝居の音楽劇に挑んでいます。二人の女優と、完全オリジナル台本、楽曲による音楽劇の創作の現場ですが、稽古を積み重ねるごとに、より人間味溢れる豊かなキャラクターが出来上がっていく、このプロセスがたまりません。
これは毎回大切にしていることですが、創作をする際、先ずは共に作品を探究する俳優たちと対話を積み重ねる時間をもちます。これをテーブルワークと呼ぶのですが、作品について、状況や背景について考え、また登場人物たちの性格についても語り合います。演出家は俳優の共同探究者であると思っているので、答えのない問いについて共に仮説を立てながら、進めていく。この創作プロセスを、私個人としては、何より重要視しています。
作品や登場人物のキャラクターを分析する際に、各シーンでの感情の紐解きも行っていきます。そのシーンで、この登場人物は、なぜこんな感情を抱くのか。その背景を探っていくのです。感情は一つの状態であり、その状態を俳優が表現するには、理由となる能動的な動機をより具体的に見つけなければなりません。
能動的な動機を探していく作業は、本来俳優自身が、自ら見出さなければいけないのですが、その時間を演出家が無視して、全て指示出してしまうケースもまだまだ多く見受けられます。俳優は演出家の駒ではありません。演出家が交通整理するがままに自分の技量を発揮するやり方では、クリエイティブな俳優は育っていかないのです。俳優たちがクリエーターとして、作品について、役について、共に探究する時間、こういった現場をもっと多く広めていきたいと考えています。
”『感情』を紐解いた後は、動機を探りながら『思考』する時間”
作品の世界観、前提状況を共有した後は、俳優たちは自分の役について、どういう目的をもって行動しているのかを、それぞれが思考していきます。仮設を立てて、場面が成立するかどうかを、実演しながら検証していくのです。この作業なくして、豊かなキャラクターは生まれません。この一連のプロセスを丁寧にやればやるほど、より人間味溢れる豊かなキャラクターへと繋がっていくのです。
稽古が充実している現場は、クリエーターとして自立した俳優たちが、稽古以外の時間も活用し、地道な作業を積み重ねているからかもしれません。そんな俳優たちは常にチャレンジ精神を忘れず、稽古場ではいつも果敢に行動します。そんな姿勢から演出家も大いにインスパイアされ、作品を更に更に深掘りしたい想いにかられるのです。どこまでも昇華し続ける、あくなき探究心をもって。
以上のことから、私が大切にしている創作プロセスでは、沢山のEQを必要とします。この一連のプロセスをいつの日か映像にして可視化したいな、と目論んでいるのですが、さてそれはいつになることでしょうか。この夏は、そんなプロセスを大切にしながら、私が居住する長野県東信エリアの小諸市で、「ダリアは青空の下に~ミサキとアイの7日間~」を上演します。二人の俳優との濃密な時間、そこには沢山のEQを求められますが、そのためには、同時に私自身がEQの学びを継続していくことが何より大切だと感じる今日この頃です。
生きる力をつくる・はぐくむをコンセプトとした
Art-Lovingというアートカンパニーで、演劇創作と演劇共育を中心とした教育事業に勤しむ。
舞台演出家・演劇共育実践家・ラジオパーソナリティ(FM軽井沢)として活動中。