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子どもを中心とした学びは可能なのか~CASELカンファレンス: SEL Exchange

こんにちは、まわりーです。Six SecondsのPOP-UPフェスティバルチームの一員として、世界最大規模のSELカンファレンスSEL Exchangeに、登壇者として参加してきました。11月12日~14日、シカゴの大きなカンファレンスセンター(ビックサイトのようなところ)で行われた本カンファレンスには、全米のみならず南米やヨーロッパ、台湾を含む30か国から1800名が参加し、200組が登壇しました。主催のCASELは設立から30周年ということで、オープニングイベントからとても盛大に執り行われたこのカンファレンス。登壇して話した内容も含め、様々な場所から集まった専門家や実践者で交わされたアイディアや世界長最先端のSELの取り組みを少し共有できればと思います。

主催のCASELとは?CASELのSELモデルとは?

CASELとは、Collaborative for Academic, Social, and Emotional Learning; 学問・社会性・感情の学びのための共同体という団体で(発音はキャッソウ)、1994年に設立以来30年、SELを教育に統合するための研究活動を中心に行っている非営利団体です。CASELのフレームワークや理論は多角的に研究・活用されており、アカデミックデータの中で米国のSELをリードしている団体です。

CASELのSELモデル(CASEL Wheel)は5つのスキルから成ります。

  • Self-Awareness 自己認識
  • Self-Management セルフマネジメント
  • Responsible Decision-Making 責任のある意思決定
  • Relationship Skills 対人関係スキル
  • Social Awareness 社会的認識

アカデミックの分野におけるSEL調査研究のトップランナーで、世界各国の多くの団体がSELについて学ぶとき参照されるのがこのCASELです。

気になる方もいるかと思い補足ですが、アイオワ州にあるDubuque大学は研究の中で、CASELモデルのSELと、Six SecondsのEQモデルの関連性について言及し、CASELモデルで表現されるスキルがSix Secondsの3つのドメインと8つのコンピテンシーのどれと当てはまるのかを表現しています。Dubuque大学のライザ・ジョンソン教授は、high education: 高等教育でもっと活用されるべきであること、そのためには大学全体への意識の浸透と教員教育が必要であるとして、学生向けのワークブック、教員向けの指導書を出版した上に、大学の教員が定期的にEQトレーニングを受け、政治、経済、法律、教育、ありとあらゆる学部においてSEL/EQが活用されるような仕組みを整えました。

関連リンク:研究サマリーワークブック指導書

SELカンファレンス SEL Exchangeとは

SEL Exchangeは、世界中のイノベーター、教育者、研究者、政策指導者がつながり学び合う、年に一度の機会です。例年1000~2000人規模で、たくさんのスポンサー企業・大学の力も受けて開催されています。毎年春に応募が始まり、選出プロセスを経て夏頃に登壇者が決定し、毎年11月に開催されているそうです。今年は500組の応募があり、そのうち200組が選出され、その中から100組がスピーチ・クラス、残りの100組がポスター展示です。

「学業で成功するためのSEL」に不可欠なのが、居場所感のためのSEL

たとえば算数や理科など、苦手意識を持つ子どもが比較的多い教科において大切なのは、子どもたちが感情的に「できるかも」と思える瞬間を増やしていく仕掛け、といった提案がありました。この「できるかも」は、「できるかもと思いなさい!」と言えば芽生えるものではもちろんなくて(*私が問題視している日本の感情の命令現象・感情への介入現象については次回のコラムで書きます)、子どもたちが心を開いて、チャレンジしようと思える、分からなくても諦めなければ大丈夫だと思える、できる方法を複数思い浮かべたり試したり、人に助けを求めたりできるとわかっている、という感情的な準備が必要です。という全体向け講演の後の分科会にて、この準備フェーズにおいてキーになるのが、居場所感だという研究結果とその発表がとてもよかったです。EDC: 教育開発センターのシニア研究リーダーの話によると、小さな子どもたちも高校生も、「自分を助けてくれるのは誰なのか」を理解しており、そんな存在が学校のどこかや教室内にいるとき、居場所感を感じています。助けてくれる人は先生や学校でもっともよく会う大人だと効果が高いですが、友だちの中にいることでも居場所感にポジティブな影響を与えます。また「居場所感」は個々人の中にある感情ですが、居場所感の醸成のためにできる努力は非常に仕組み的であり同時に個人的です。個人の感情が、他者・クラスの雰囲気・学校の風土に作用し、またそれは逆方向にも大きな影響を持ちます。居場所感はその空間の持つ雰囲気・風土であり、それを育むには個人・仕組み、両方の努力が必要です。

世界中のひとりひとりの子どもへEQを~POP-UPフェスティバルの事例紹介

私は20秒x20スライドを7分で話す、日本発のプレゼン形式pechakuchaというカテゴリーのプレゼンターとして登壇しました。
アメリカのSix Secondsが始めたPOP-UPフェスティバルが、なぜ日本の、なぜ当時シングルマザーだった私を巻き込んだのか――。その背景にはSELを不公平にしたくない、すべての子どもたちに届けたい、というPOP-UPフェスティバル開始当初の思いがあります。Six Secondsは25年前に教育分野出身のメンバーから始まった団体で、EQが子どもたちの未来を明るくたしかなものにすることに確信を持っていたこと、子どもの権利教育にはEQが欠かせない、という思いがありました。また設立間もなくイタリア・APAC・中東・ラテンアメリカ・中国・日本とグローバル展開をしていったことで、グローバルコミュニティであることがアイデンティティの一部にあること、自らを「コミュニティ」と表現し、個々人同士のつながりを基本にしていることなどがベースにあったことで、あらゆる垣根を可能な限り越えて、誰でもアクセスできるプログラムを生み出す、というアイディアから、POP-UPフェスティバルは生まれました。アクティビティは30言語以上に翻訳され、学校や学校の先生だけでなく、DAIJOUBUのような団体や、イオンさんのようなショッピングモール、親、地域、ボーイスカウト、ライオンズクラブ、警察(!)も主体となって開催できるようにし、更に誰でも準備しやすい学校でよく使われるような文房具・身の回りにあるものでできるワークを開発しました。2017年にスタートし翌年にはサポート体制となるメンター制度が始まり、現在では翻訳・メンター・地域代表という3役によるボランティアのリーダーグループで、全世界にサポートネットワークを持っています。

私がPOP-UPについてたまらなく情熱を持っているのは、SELを「教える」のでなく、おとなが子どもと一緒に体験できる仕掛けになっていることです。そして近年はグローバルキャンペーンを通じて、ウクライナなどの戦争地域やアフリカの少年兵のためのNPO団体を含む、世界の色々な場所に暮らす子どもたちの声が集まってくるプログラムになっています。子どもは遊びを通じて学ぶ、感情について話したときに人々はつながる、という2つのアイディアをベースに持つPOP-UPフェスティバルのパワーは、DAIJOUBUのプログラムに参加したことのある多くの皆さんが共感していただけるのではないでしょうか。

SELを教えるのでなく、いっしょに体験して子どもの声を聴く

SELについて「指導」「評価」「しつけ」という言葉が使われることが、今回のカンファレンスでもあり耳にとまりました。先日日本でもさいたま市教育委員会がEQを導入し、EQ測定・EQ診断を取り入れるというニュースも話題になりましたよね。DAIJOUBUとしては、EQ・SELは、子どもの方がむしろ高いというデータがあること、またそれを体感でも納得していることから、大人はEQ・SELを子どもに「教える」立場にないのではと考えています。また、子どものSELには大人のEQ力が何よりも大切なこと、大人のEQ力の向上や開発や維持には、DAIJOUBUが取り組むような定期的に意図的に時間を作り、自分自身を振り返って心と頭をニュートラルにする・ほぐす時間が必要だということを5年間ずっと続けてきた定期クラスの仕組みで身をもって体感していることから、子どもに「EQ検査」を「指導」「評価」のために導入することには反対の立場です。いっしょに体験して、対話をして、子どもひとりひとりの声を聴く。これは意図的にPOP-UPのような時間を持てたら理想的ですが、普段の小さな会話の瞬間にも意識することで積み重ねていくことができます。それが本人の安心感、居場所感、モチベーション、意志力、につながっていきます。

研究結果・フレームワークと、教育現場の声

カンファレンスではたくさんの研究結果がシェアされ、「子どもたちの感情・社会性の成長のためにどんな働きかけをしますか?」「子どもたちの態度を改善させるためにどんなかかわりを持ちますか?」といったテーマが登壇者から上がり、グループで話し合うなどの機会がありましたが、研究者やリーダーたちが胸を張って共有する研究結果やフレームワークに対して、現場の先生たちが疑問を持つ瞬間を何度か目の当たりにし興味深かったです。現場の先生たちの言葉で私が希望に思えたのは、「個人的に・感情的に気にかけられ、見てもらっていると感じて、聞いてもらえると信じられれば、その結果が態度なのではないか。つまり態度に対して働きかけるのは、的外れなのではないか」といった声でした。カンファレンスに来場していた教育現場の多くの先生が、フレームワークや手法、教材だけで太刀打ちできない場面があることを身をもって感じていて、その土台には「子どもたちひとりひとりの感情的な準備」が横たわっていることを痛感しています。そしてそれにはいろんなツール(方法論)と同じくらい、先生たち・親自身が、EQ的なかかわりを受けていることが不可欠です。

ライフスキルとしての、EQ・SEL、いっしょに育みませんか?

EQ・SELに関わる多くの人が、EQ・SELはライフチェンジング(人生を変えるほどの力を持っているもの)であると思っています。今回のカンファレンスでたびたび「大人のためのSEL(つまりEQ)」という言葉が飛び交いました。DAIJOUBUが設立当初から続けてきたように、子どもたちにとって安心できる社会のためには、やはり大人の大丈夫感が欠かせません。大人のEQ力が、子どもたちの未来にも、社会にも大きなインパクトを持っています。子どもたちの未来を思い、いまよりやさしい世界の実現を願うなら、ぜひDAIJOUBUでいっしょにEQを体験しませんか?

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11月20日は世界こどもの日

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