療育現場でEQを伸ばすために…意識している3つのこと
教員を経て、現在は療育現場で様々なお子さんにSST(ソーシャルスキルトレーニング)を行っているなかで、私自身、EQを伸ばすための問いかけを意識したり、支援計画の中にもEQ的な要素を導入してみたりしています。しかし、療育の現場だからこそ難しさを感じたこともあります。特に「他者との関わり」を考えたり、実践する場面では「他の子のことなんて知らない!」と言わんばかりに難しさを感じたこともありました。今回は、「自閉症スペクトラム10人に1人が抱える生きづらさの正体」本田 秀夫(著)の内容も参考にしながら、療育の現場でEQを伸ばすために、現時点で私自身が意識しているポイント3つを紹介したいと思います。
自分の感情を認知するアプローチを様々なやり方で
「他者との関わり」を感情も含めて考えていくことは前述したとおり、難しさを感じることが多いですが、「自分の感情を知る」ことは少しずつ出来るようになってくる印象があります。例えば、色んな表情のイラストを使って自分の気持ちを聞いてみたり、イラスト+5段階のメーターのようなものを活用して聞いてみたり…そういったことを繰り返していくと、もちろん最初は特性上パターンで答えてしまうという場面も多いですが、様々な場面で続けていくと感情の語彙も増えてきたりして、少しずつ自分の気持ちを知り、表現できるようになってくる印象があります。中高生くらいになってくると、ハート塗り絵の中に様々な感情があって、その理由も教えてくれたこともありました。なので、まずは、自己認知のアプローチを様々な手立てで様々な場面でボクシングのジャブのように行っていくことを意識しています。
「物心がつく」のが思春期から。それまでは成功体験を。
「物心がつく」のはいつ頃か?自分自身を振り返ってみても多くの人は、幼少期を思い浮かべると思います。「物心がつく」というのは、自分の周囲のことに目を向けられるようになることでもあると思うのですが、今回参考にした書籍の著者である精神科医の本田秀夫さんが成人した自閉症スペクトラムの人たちに「いつごろから世の中や自分の周囲に目を向けられるようになった?」と聞くと、総じて「中学生頃」と答えるそうです。思春期のある時期から急に大人びて分別のある言動が増えてくるのもこのためではと思われます。私が「他者との関わり」で難しさを感じていたのも納得です。
「物心がつく前」の幼少期には特訓をしてするということはしないと思います。子ども自身が「苦しい特訓を乗り越えてでもこうなりたい」と思えるような動機をもてないからです。それと一緒で、特に自閉症スペクトラムのような特性があるお子さんは、物心がつくタイミングが違うので、それまで、つまり小学校高学年くらいまでは、「○○ができるように」という特訓をしないようにしたほうがいいなと感じました。ここで、失敗体験を繰り返してしまうと自己肯定感が下がってしまい、この状態で思春期になれば周囲にも目が向くことで、よりふさぎ込んだりしてしまうからです。
なので、思春期までは安心できる環境で得意なことを十分に保障していくこと。そして、他者との関わりの部分に関しては知識としてのインプットは行ったりはしますが、他者の感情も想像しながら…といったことは、今はできなくても大丈夫。と思っています。
思春期に入ったら…
思春期に入ったら、物心がついてきて周囲に目が向いてくるのでここで他者との関わりを、感情も含めて考えていく活動ができればと今は考えています。自分の感情を知ることをそれまで継続して行っていれば「自分はこんなとき、ムカつくんだけど、○○君も同じなのかも…」と今まで気づかなかった視点に目が向くようになるかもしれません。そんな言葉からじゃあどうしていくか…と共に考えていくようなことができればと思っています。
人間は本来、育つタイミングもそれぞれ違います。改めてそれに気づいて現在の現場では、「物心がつくのが思春期ごろ」を念頭に置いてそのタイミング、タイミングでできるEQ的なアプローチを意識しています。「〇歳までに絶対○○ができなければいけない」ということは無いと思うので、この育つスピードが人それぞれ違うということを知るだけでも色々と変わる部分が多いのかなと感じています。
金融機関での勤務や9年間の公立中学校教師生活を経て
現在は放課後等デイサービスで学習指導やSSTを行う
自分自身も、子どもたちも「自分らしく生きて幸せに」というモットーのもと
教育に携わっています